ベッドセンサー導入で変わる夜間ケア:職員の負担減と利用者の安心を実現した特養の取り組み
介護施設において、夜間の見回り業務は職員の大きな負担となり、同時に利用者の転倒や事故への不安は尽きない課題の一つです。特に人手不足が深刻化する中で、いかに効率的かつ質の高いケアを提供するかは、多くの施設の共通の悩みとなっています。
今回は、夜間の見回り負担の軽減と利用者の安全確保に焦点を当て、見守りテクノロジーを導入して大きな成果を上げた特別養護老人ホーム「ひだまりの家」の事例をご紹介します。
導入前の課題:夜間の重い負担と尽きない不安
ひだまりの家では、見守りテクノロジー導入前、夜間ケアに関して主に以下の課題を抱えていました。
- 夜間巡回による職員の負担と利用者の安眠妨害: 定期的な巡回は欠かせない業務でしたが、利用者の安眠を妨げてしまう可能性がありました。また、広範囲にわたる巡回は夜勤職員の身体的・精神的負担が大きく、疲弊の一因となっていました。
- 転倒・事故リスクへの継続的な不安: 巡回間隔が空く時間帯において、利用者がベッドから離れて転倒してしまうのではないかという不安が常にありました。特に夜間は暗く、状況を素早く把握することが難しい場面も少なくありませんでした。
- 記録業務の煩雑さ: 巡回ごとに利用者の状況を確認し、手書きで記録を残す作業は、時間と労力を要し、他の業務を圧迫していました。
これらの課題は、職員の定着率にも影響を与えかねない喫緊の課題として認識されていました。
導入した見守りテクノロジー:ベッド下設置型体動センサーシステム
ひだまりの家が導入したのは、ベッド下に設置するタイプの「体動センサーシステム」です。このシステムは、利用者の呼吸や心拍に伴う体動、あるいはベッドからの離床動作を非接触で検知し、異常があった場合にのみ職員の持つタブレット端末やナースコール端末にリアルタイムで通知するものです。
導入の決め手は、利用者に直接触れることなく見守りができる非接触型である点と、システムが非常にシンプルで直感的に操作できる点でした。現場の職員がスムーズに使いこなせるかという不安があった中で、デモンストレーションを通じてその簡便さを実感できたことが大きかったと言います。
導入による具体的な成果:負担軽減と安全向上、そして働き方の変化
体動センサーシステムの導入後、ひだまりの家では目に見える形で大きな変化が現れました。
1. 夜間巡回業務の劇的な効率化と職員の負担軽減
従来の定期巡回から、「異常があった時のみ対応する」という効率的な巡回体制へと移行しました。 これにより、以下のような具体的な成果が得られました。
- 無駄な巡回の削減: 必要のない巡回が減り、職員は真に必要なケアに集中できるようになりました。
- 身体的・精神的負担の軽減: 夜勤の職員は、広大なフロアを頻繁に巡回する肉体的な負担から解放されました。また、「いつ利用者さんが起き上がるか分からない」という精神的な緊張感も緩和されました。
- 質の高いケアの提供: 職員に心の余裕が生まれ、きめ細やかな排泄介助や体位交換など、質の高いケアを提供する時間が増えました。
2. 利用者の転倒・事故リスクの低減と安眠の確保
センサーが利用者の体動変化や離床の兆候を早期に検知することで、転倒事故の未然防止に大きく貢献しました。
- 早期発見・早期介入: センサーが離床の予兆を捉えた瞬間に通知が入るため、職員は利用者が完全にベッドから離れる前に駆けつけ、安全な介助が可能になりました。
- 利用者の安眠妨害の減少: 不要な巡回が減ったことで、利用者が安眠を妨げられることなく、安心して夜を過ごせるようになりました。
3. 記録業務の効率化
システムが体動や離床の記録を自動で取得し、データとして残す機能は、記録業務の負担を大幅に軽減しました。
- 記録時間の短縮: 手書きで時間をかけていた記録作業が簡略化され、他の業務に時間を充てられるようになりました。
- 客観的データの蓄積: 利用者の睡眠パターンや体動の傾向を客観的なデータとして把握できるようになり、個別ケア計画の見直しや改善に役立てられています。
導入施設のリアルな声と運用への工夫
ひだまりの家の介護主任は、導入後の変化について次のように語っています。 「当初は新しいシステムに慣れるまで時間がかかるかと心配していましたが、操作画面が非常にシンプルで、スマートフォンやタブレットを日常的に使っている職員ならすぐに慣れることができました。今では夜勤になくてはならない存在です。何よりも、夜勤の職員の表情が明るくなり、利用者さんの安眠が確保されたことで、結果的にADLの維持にも繋がっていると感じています。アラートが鳴る基準を微調整するなど、施設に合わせた運用ができる点も助かっています。」
また、実際にシステムを運用する介護職員からは、「以前は夜中に何度も部屋を覗きに行き、その都度記録を付けていましたが、今は必要な時だけ対応できるので、体力的に非常に楽になりました。センサーのおかげで、アラートが来る前に予兆で気づけることも多く、慌てずに対応できるようになりました」といった声が聞かれました。
導入当初は、アラートの誤検知や、逆に検知漏れがないかといった不安から、職員が過剰にシステムを意識してしまうこともあったそうです。しかし、数週間システムを運用する中で、センサーの感度設定を最適化し、職員間で情報共有を密に行うことで、信頼性を高める工夫を重ねた結果、現在では安心して運用できています。
見守りテクノロジー導入を検討されている方へ
ひだまりの家の事例が示すように、見守りテクノロジーは単なる監視ツールではありません。職員の負担を軽減し、より安全で質の高いケアを提供するための強力なパートナーとなり得ます。
導入を検討される際には、自施設の課題を明確にし、その課題を具体的に解決できる機能を持つシステムを選ぶことが重要です。また、操作の簡便さや、導入後の職員への丁寧な研修と運用サポート体制の確認も欠かせません。
見守りテクノロジーを上手に活用することで、職員の働き方を改善し、利用者の安心と安全を向上させる新たな介護の形が実現できるでしょう。